震える手

歳は40代後半だろうか、コンビニのバイトに勤めるのは恐らく初めてであろう中年の男が、俺の会計時の店員であった。

慣れない手つきで恐る恐るレジを打つ。当然遅い。

人差し指で一つ一つ確認しながらキーを押してゆく。

後ろで、先輩であろう若い女の子がそわそわしながらその指先の目を追う。

100円単価の買い物であったが、万札しかなく、釣りを震える手で3回も数えなおし、また、俺に見せながら「一千、二千、三千…」と数えていく。
もう良いよと言いたい所だったが、黙って見ていた。すると、千円札も、小銭も、レシートもレジのテーブルの上に置いた。

通常は手で渡すのだし、これじゃあ取りにくいだろう。

しかし彼の震える声と手を見ると、許せる自分が居た。

自分も、丁寧に100円玉を一つづつ、拾い上げた。

彼は品物が入ったレジ袋を両手で持ち、腕をピンと前方に差し出しながら、俺の方面へ向けた。

しかしながら、まだ震えてビニール袋がガサガサいっていた。

そこは、なるべく早く受け取った。

前職は何をしていたんだろう？ふと思った。
案外、普通のサラリーマンかもしれない。

この状況は、他人事ではないような気がする。
外は、鳩が相変わらず何もないアスファルトをつついている。

俺は、50円玉を拾った。