邪悪

古い骨董品屋に入った。
薄暗い豆電球とホコリの匂いと何処かしら、懐かしさを漂わせる木の温もりの中で、一際、それは何故か僕を無条件に惹き付ける、古い、木製の彫刻が一つあった。
それは、長方形で、何か光るものがあるのでよくよく見ると、蝶々の形をし、よく磨かれて虹色をした貝がらが埋め込まれていた。

メインは色々混ざっていて、古代エジプトのような絵文字と、ピカソのゲロニカのような抽象画、背景として江戸時代の絵巻者のような雲の絵もあった。

不思議で非常に美しい木製の彫刻にますます惹かれ、オーナーに、「これを下さい」と、その場で、1万6千ほど払った。

しかし、後でよくよくみると普通の彫刻にしては奥行きがある。タンスのような形で、扉があった。
中を開けてみると、一気に唖然とした。

真っ暗な扉の中には、何とも不吉な、2～3歳位をモチーフにした、薄汚い日本人形の男児が真ん中に一つ。

こちらを見つめ、不吉な笑いと怒りを露にしている顔つきをしていた。
しかも、前髪が一部、伸びているのである。それを見て、直ぐ様、その扉を閉じたと同時に、本当に恐ろしくなり、クーリングオフをオーナーに頼んだ。

「もう、出来ませんよ」
冷や汗がドット出た。
「これは皆さんあまり気にしてない物でしたが、気にする人は気にするんです。これは、人間です。人間そのものをモチーフにしてるのです」

言葉を無くした。

確かに、人間かもしれない。どんなに素晴らしく綺麗に見えても中身まで見えない。

人間は好きなのか、嫌いなのか、わからない。しかしながら、信じてはいない。でも、信じたい気持ちもあるが、彼等は真意を話さない。
しかし、自分は何なんだろう、こんな事を考えている自分に腹が立った。

「持って帰ります」

そう言った。しかしオーナーが「これは非常に重いから、家まで届けましょう」

雨の日、オーナーが届けに来る日だった。

いつまで経っても来ない。
指定時刻を大幅に過ぎて、夕方になった。

すると、チャイムが鳴ったのでドアを開けた。すると、雨でずぶ濡れになった小さい男の老人がレインコートを頭に被り、こう言った。「オーナーは届けている最中に交通事故で死んだ」

それを聞いて、昼中に目が覚めた。

全ては俺が夢の中で勝手に頭の中で構想されていた話だった。

しかしながら、心臓は高らかに鳴っていた。
こんな夢を見る僕は、何処か可笑しいのでしょうか…。